ユニバーサルインフルエンザワクチンの開発状況は?

あらゆるインフルエンザウイルスに対して有効な「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の開発成功まで、道のりはそう遠くないのかもしれない。ヒトを対象にした初期段階の臨床試験で、この実験的なワクチンの接種により、多様なインフルエンザウイルス株やサブタイプに対する強力かつ長期間持続する免疫応答の誘導が確認されたのだ。米マウントサイナイ・アイカーン医科大学微生物学教授のFlorian Krammer氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に12月7日掲載された。

世界保健機関(WHO)によると、季節性インフルエンザにより世界中で毎年65万人もの人が死亡している。また、インフルエンザのパンデミックは決まった間隔で発生するわけではないため、場合によっては数百万人の命を奪う可能性もある。

現行のインフルエンザワクチンは、ワクチン接種により中和抗体(抗原の活動を抑制する作用のある抗体)を誘導することで、インフルエンザの発症や重篤化を防いでいる。しかし、ワクチン製造で使われるウイルス株と、実際に流行するウイルスが必ずしも一致するわけではない。また、インフルエンザウイルスの感染に大きな役割を果たす、ウイルス表面の糖タンパク質〔ヘマグルチニン(血球凝集素、HA)、ノイラミニダーゼ(NA)〕の抗原性は頻繁に変異するため、既に獲得した免疫では発症を防げないこともある。インフルエンザワクチンを毎年接種しなければならないのは、このためである。

Krammer氏らが開発中の新しいキメラHAベースのワクチンは、従来のインフルエンザワクチンとは異なるHAの領域(ストーク領域)を標的とすることで、従来のワクチンの弱点を克服しようとするものである。従来のワクチンは、中和抗体が結合しやすいHAの頭の部分を標的にしている。だが、この部分の構造は、インフルエンザウイルスのタイプごとに大きく異なっている。一方、HAの頭部に続くストーク領域の構造には、ウイルスのタイプごとの変化がない。このため、ストーク領域を標的にしたワクチンを作れば、ウイルスの変異にも対応可能になるというわけだ。

この新ワクチンの有効性と安全性は、米国の成人65人(18~39歳)を対象にした第Ⅰ相臨床試験で検証された。その結果、新ワクチンを接種することで、さまざまなウイルス株に対する強力な免疫応答が誘導され、その予防効果が18カ月以上持続することが明らかになった。また、ワクチンの安全性も確認された。

この結果を受けてKrammer氏は、「今回の臨床試験により、免疫応答の持続性という点に関する私たちの理解が大いに深まった。また、ワクチン接種によるインフルエンザ予防のあり方を大きく変え得る、この新しいワクチンの開発成功に向けて、大きな弾みがついた」と述べている。

一方、この研究論文の共著者である、同大学微生物学教授のAdolfo García-Sastre氏は、「さまざまなインフルエンザウイルスに対応可能で多機能性のこのワクチンは、国民にインフルエンザ予防接種を毎年行うためのリソースやロジスティクスを持たない低・中所得国にとって、特に有益となる可能性がある」と話している。(HealthDay News 2020年12月7日)

https://consumer.healthday.com/b-12-7-are-scientists-close-to-a-universal-flu-vaccine-2649224862.html

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